夜の流れ

「横浜ダンス界隈」へ行った。企画の段階で紆余曲折あったとはいえ、ちゃんと個々のピースとしてのクオリティを重視していて、見応えのある内容だった。ただ頭数だけ揃えてヌルく盛り上がろうとする「イヴェント」とは一線を画している。今日も色んな人に会い、打ち上げにちょっとだけ顔を出して(というより単に空腹だった)、KさんSさんと帰った。
そうしている間に、BS2でやっていたスティーヴン・ソダーバーグの『エリン・ブロコビッチ』を見逃す。録画予約を忘れそうだ忘れそうだとやたら気にかけていたら本当に忘れた。ソダーバーグは『アウト・オブ・サイト』にヤラれて、でも『トラフィック』を見たらそれほどでもなかったので、この『エリン・ブロコビッチ』を見てみたかったのだが、なぜか機会が少ない。見たい。
しばらく中断していた岩井克人貨幣論』を読み終わった。面白いし勉強になるんだけど、なんかこのご時世だし、キツネにつままれたような読後感。ハイパー・インフレについて書かれた部分で引用されている、1923年のNYタイムズの記事が笑えた。「通貨に書かれたあまりに法外な数字がひとびとのあいだにひきおこした一種の神経症にたいして、当地ドイツの医師たちが考案した名前は「ゼロ発作」あるいは「数字発作」というものであった。何兆という数字を数え上げるために必要な労力にすっかり打ちひしがれ、多数の男女が階級をとわずこの「発作」におそわれたことが報告されている。これらの人々は、ゼロ数字を何行も何行も書き続けていたいという衝動にとらわれているということ以外には、明らかに正常な人間なのである」。「書くのがうんざり」じゃない辺りがリアル。
ところで、クローチェの Estetica の新訳に関わることになった。75年ぶりの改訳になるが、イタリア語原著からの訳としてはこれが初。すでに出版が決定しているので、あとはできるだけ早く仕事をこなすのみだ。日本語タイトルは『美学』にはならなそうだが、『感性論』になるかどうかはまだわからない。ぼくは『感学』ってのがいいと思う。
先月買った電子辞書のキャッシュバックでアマゾンからギフト券をもらい、速攻で使った。欲しかった本を少し買うことができた。ところで電子辞書は、今まで持っていなかったのがアホらしく思えるくらい便利だ。もう紙の辞書なんか全然開かなくなった。本当は英語だけじゃなく仏語や独語も入ってるやつが欲しかったのだけど、何気によく使うのが『広辞苑』だったりする。面倒くさくないから、すぐに調べる。「不世出」の意味を勘違いしていたことが判明したりする。ソフト面では満足しているのだが、ボタンのストロークが深すぎるのがやや難点。軽くて深く、材質はツルツルしたプラスティック。小さいので押すたびにプリップリして、そのくせ反応が鈍い。やっぱり家電は店頭で確認しないとダメだ。
ついでながら、前々からおかしな話だと思っているのだが、電子辞書はともかく、少し大きい家電になると店頭ではその性能を実際に確かめることができない。大きな買物をするのにそのパフォーマンスを確かめさせない、確かめないとはどういう取引なのか。ずっと前に長年愛用してきたVHSデッキが完全に壊れたので、この際だからとハードディスク+DVDレコーダーにしようと思い、「ハードディスクで録画するとどの程度の画質なのか見たい」と店員に聞いたらそれのデモは用意していなかった。そんなことも確認しないでこんな金額をポンと出せる方がどうかしていると思いつつ、頼んだらあちこちからケーブルをかき集めてきて録画して再生してみせてくれた。到底お話にならない画質だったのでやめて安いVHSデッキを買った。一万円くらい。別にぼくは画質にうるさいわけではなく、むしろ画質だの音質だのに対しては鈍感な方だし、アナログノイズには慣れてしまっているから、単にあのガキガキしたデジタルノイズにまだ馴染めないだけなのだろうとは思う。しかしリモコンだって色々使い勝手を試したいし、ヴィデオデッキなら例えば再生中に巻き戻しボタンを押した時の動き方とか、高速で巻き戻している時にウィンドウにテープの残り時間が表示されるかどうかとか、そういう細かいことまでチェックしたい。価格帯が同じならスペックに大きな違いなんかないんだから、「買い」の決め手は、ゴテゴテしているだけで結局使わない余計な特殊機能なんかじゃなくてこういう細部の使い勝手なのだ。まあVHSデッキでこんなこと一々聞いたら怒られると思うけど。