白州初日

本当に眠らないで出発ギリギリの瞬間に原稿を上げて新宿から特急で甲府を経て白州へ。日野春駅で列車を降りると、いい感じの鄙びた駅で小さな店や建物が強い日を浴びて静まり返っていた。真夏の山は、カーッと晴れていても暑くはなく快適で、ムードに浸れる。日野春駅から車で運んで頂き身体気象農場の脇にある本部に着き、事務局長の斎藤朋さんらにお会いする。テラスになっている食堂で、ヴォランティアの方々の手になるオーガニックな昼食を頂きながら斎藤さんや明日踊るフランク・ファンデフェンさんから色々話を伺っていると、昨日踊った上村なおかさんが現われる。ACC関係でお世話になっているKさんと、先日のBimo Dance Theaterにも出演していたインドネシアのダンサー、ブサールさん。お二人は帰るところだったがブサールさんとは来月ジャワで再会予定。白州の常連であるダンサーのザック・フラーさんとも話す。NYの方なので秋以降はNYで。お昼で徐々にたくさん人が集まってくる。色んな国の人がいて、子供とか猫とかも混ざりつつ。今日の午前に「ダンス談話」を担当された國吉和子さんもやって来た。先日東京と横浜でやっていたクーリヤッタム(インド・ケーララ州の「サンスクリット・オペラ」)が白州でも上演されたのだが、やはりマスト・シーだったらしい。インドはいつか行きたい。國吉さんからは「ダンス談話」をどんな感じでやったか伺って明日の参考に。思いがけずダンスグループPの面々とも会う。映像のWSに参加しているとのことだった。
そろそろ独舞が始まる時間なので、各自自分で使った食器を洗って國吉さんと一緒に会場の「畑」へ。Sさんと、Nさん夫妻。あと京都のTさんが来ていて驚いた。明日出演する康本雅子さんも来た。「畑」は本当に何も植わっていないただの「畑」で、とにかく広い平面ゆえ手がかりがなく、踊るにはかなりハードなロケーション。陽射しも強くて見る方も大変、木蔭に座って安心していたら日が西に傾くにつれ強烈な直射日光に焼かれる。森山開次、正朔、長谷川恵美子の順で、30分ほど踊って30分ほど休憩して、という具合に、2時から4時半くらいまで。京都のTさんとは久しぶりに会ったのでたくさん話をした。山下残の作品に出たりして以降、バレエを始めるなど実践の方に傾いているらしい。
一通り終わってから、Sさんと康本さんと、康本さんが明日踊る「水の舞台」を下見に行く。同じくフランクさんもいた。康本さんの「自然の空間だから自然っぽくない人工的なものを持ち込みたい」というアイディアを聞いて期待が高まる。衣装で悩んでいるというので、持って来ていたレインコートを貸してみる。これ自体、実は去年9月の井の頭公園で『森の微笑』を見た時に観客に配布されたもので、だからグルッと回ってフィードバックみたいな感じ。康本さんは一見してビビッと来たみたいだが実際に使うかどうかはまだ悩んでいる様子。フランクさんは歩き回ってみたりノートを開いたり、かなりディープに構想を練っているようだった。本部に戻ると、先日赤坂で会ったアーカ・シアターのディレクター、オンドレイさん&ヤナさんと再会。SさんやKさんと夕食を頂きながら「ビールが飲みたい」と言っていたらヤナさんが持ってて皆で飲んでしまう。子供がたくさんいてエキサイトしている。人なつこい。「体験疎開」というプログラムでここにやって来ているのだが、今晩は肝試しがあるとのこと。ふだん東京の地下鉄とかだと騒いでる子供にイライラしてしまうのだが、ここだとむしろ「騒がしさ」の方がニュートラルであり、そもそも自分たちとの差異が薄い。セミの声だの飛んでる虫だのを始めとする有機的なノイズが360度24時間充満していて、あらゆる活動はその中をかき分けながら行われなければならない。意味(シグナル=シーニュ)は無意味(ノイズ)と常に浸透し合っている。
キャンプ場に移動して、「光学劇場」というインスタレーション。林の中の色んな場所に映像を映し出すもので、大きなスクリーンが木々の影で垂直に寸断されていたり、地面の穴の中に映像が映っていたりする。映っている内容は様々だが基本的には抽象的なイメージ。ここに音楽が流れていたらインスタレーション全体に空間性が生まれて、見る者が歩き回るモチヴェーションが出ただろうなあと思った。キャンプ場のカフェでSさんTさんと飲みに突入し、ダンスの話など。田中泯さんとも初めてお会いした。「今の人はダンスの歴史を知らなさ過ぎ」という話に激しく共感。
明日は午前中に仕事なので早めに切り上げ、宿まで送って頂く。初めて泊まるペンション。シャワーを浴び、何しろ昨夜は眠ってないので睡魔に襲われる前に明日の準備を仕込む。喋る内容と段取りを決めて今日は終了。