今年は9月前半までしか日本のダンスを見ていないが、単純な意味で主観的な、趣味的なセレクトではなく、あくまで批評的なセレクトにしたいので、自分が見ている限りでの日本のダンスから選ぶことにした。単に主観的で趣味的なセレクトなら、個人が恣意と偶然に支配されながらただ好ましく思ったものを並べるだけなので、日本でずっとフォローしてきたものも、NYでたまたま見たものも、選択の対象として違いはないことになる。しかし批評的なセレクトというのは、一定の仕方で恣意性と偶然性を制限し、選択のための母集団をある程度はっきりさせることで、何らか特定の文脈を引き受けつつそこにコミットしようとするささやかな「発言」だと思われるので、全く不完全ながら、2005年に日本で見たダンスのベスト5を考えてみることにした。

●1位 神村恵 『脱出&カムバック』(4月、早稲田大学学生会館、「dancedoor vol.1」)
●2位 Off Nibroll+ジョー・ロイド&シオオオタニ 『public=un+public』(5月、BankART1929・1929ホール)
●3位 岡田智代 『ルビィ』(7月、世田谷パブリックシアター、「トヨタコレオグラフィーアワード2005」)
●4位 砂連尾理+寺田みさこ 『loves me, or loves me not』(2月、シアタートラム)
●5位 KINKY 『O what a happy title do I find』(5月、セッションハウス、「シアター21・フェス Step Up vol.8」)
◎次点 珍しいキノコ舞踊団 『家まで歩いてく。』(3月、彩の国さいたま芸術劇場・小ホール)

2位以下は大して順位に意味はない。去年*1と比べてもクリティカルに突き抜けた表現が少なく、選ぶのに苦労したというのが正直な感想。神村恵は今年大活躍というか、ほとんど毎月のようにどこかに出ていた。「ダンスがみたい!新人シリーズ」の直後に「21フェス」(カワムラアツノリとのデュオ)を抱えているところへ無理を言って二月の「アート・ノヴァ」のために新作ソロを作ってもらって、夏以降は怒涛のように「ダンスがみたい!」、タナトス6、「ダンスシード」、「踊りに行くぜ!!」(仙台と弘前)、がざびぃ、横トリの「ナカニワ・ダンス・パフォーマンス」、「ラボ20」。要するに半分以上見逃してしまう結果になった。とはいえ去年からずっと見ていて、四月の早稲田のこれはやはり突出して凄いと思った。体と頭(身体と精神)の並行関係、あるいは両者間の危うい往還運動をキープするということ。踊りが好きな人ならば誰が見てもグッと来るような、また自らも踊る人ならば誰が見ても嫉妬するような、粘りと広がりがある*2ニブロールはあまりに高水準で安定しているためにかえってランキングしにくい存在で、去年も5位に入れた。Off Nibrollになって振付・ダンスの密度ともに、映像と身体表現の緊密さがますます斬新なものに。岡田智代『ルビィ』は正確には去年の作品だが、今回の上演はそれとは異なる新作ととらえることにした。空間を作ることがまた一つの踊りであるという意味で、圧倒的だった。砂連尾理+寺田みさこは舞台としては一見完成度の高い作品に見えるが、振付で行われている実験の性格を考えると決して完成されてはいないと思う。その実験性の方に注目して4位に。KINKYはヴィデオを使って、ある種オーソドックスともいえる表現だったが、多くの人々が定型化したと思い込んでいる表現の根っこの部分に振付家/ダンサー・杜宮慧の眼差しが突き刺さり、手法が再び活性を取り戻している。次点に珍しいキノコ舞踊団。ダンスではなくダンスについての演劇だと思うが、ダンスについてきちんと批判をする人がいない状況ゆえに、この新作は嬉しかった。
作品性ということを抜きにして、いい踊りとして記憶に残っているのは、ピンク〔作品タイトルなし〕(3月、シアタートラム、「これから日の出は誰にも教えない」)、黒田育世『モニカ モニカ 〜マーチ編〜』(4月、森下スタジオ、「BATIK・トライアル」)、白井剛〔作品タイトルなし〕(5月、横浜赤レンガ倉庫1号館、「ダンス空間の拡張―その瞬間」)、森山開次(8月、白州、「ダンス白州2005」)、花上直人『愛』(9月、葛飾青砥やくじん延命寺)。

*1:1位=ほうほう堂『るる ざざ』(10月、STスポット、「ラボセレクション2004」)、2位=チェルフィッチュ『三月の5日間』(2月、スフィアメックス)、3位=白井剛『質量, slide, & .』(11月、シアタートラム)、4位=大橋可也&ダンサーズ『あなたがここにいてほしい』(1月、STスポット、「ラボ20」)、5位=ニブロールドライフラワー』(2月、パークタワーホール)

*2:全く唐突にしてあやふやな言い方なのだが神村恵には「黒沢清」を感じるのである。「黒沢清」とは何か。