第二日

昨日は街を歩き回ってみた結果、ホテル前の川を渡った南側が賑やかなのだということがわかった。しかし入りやすい感じのカフェが見つからず、その代わりパブから大量の人が通りにはみ出して飲んだり吸ったりしている。そういう街。ホテルの部屋は通りが騒々しくてよく眠れなかったが、翌朝になって一階の奥の静かな部屋に変えてもらうことができた。きわめて快適。朝食の時、ホテルのレストランでタイのアロンコン(アル)、インドネシアのリアと会う(普段ここでは私人の固有名詞は伏せるのだが、日本語なら問題なかろうから雰囲気重視で出す)。二人とは半日一緒に過ごす。時間があるのでとりあえず観光スポットらしきものをチェックしようとトリニティ・カレッジ(ダブリン大学)へ行ってみたが、これといって印象深くはない。
大学の敷地内。

リアとアル。

「ケルズの書」も混んでいたため今日は素通り、原宿のようなグラフトン・ストリートなどをうろついてランチの店を物色する。
グラフトン・ストリート。一定の間隔で大道芸とかストリート・ミュージシャンとかがいる。画面内にちょうどいるのだが見えない。

ぼくは外国で日本食を食べようなどと考えたこともないが、アルがアジア料理の店に執着して、結局 YAMAMORI という店で噴飯もののラーメンを食す。大量の具が入っていて麺は少なく、醤油を薄めたみたいなスープ。「翻訳」ということをめぐって憂鬱な気分にさせられる。2時からはフィルム・インスティチュートでティエリー・ドゥ・メイのフィルム上映。居心地のいいカフェと充実した書店があって、映画好きには最高の居場所だ。観客は恐ろしく少なかったが、ディスカッションではティエリーが喋り倒す。客席に去年トヨタ・アワードの時に会ったヴァル・ボーン女史(イギリスのダンス・アンブレラのディレクター)を見かけたが声をかけそびれてしまった。このフェスにも関わっているようなのでまた会えるだろう。ホテルに戻って数時間原稿を書き、夜7時過ぎにまた外へ出る。朝行ったトリニティ・カレッジの中にあるサミュエル・ベケット劇場でインド系イギリス人のソニア・サブリのカタック。
劇場の外観。右奥が劇場だが、左手前の建物は外壁が木でピロティがあり、ガラス窓が十字型。ちょっとカッコイイ。

サブリの踊りは様々な新しい要素を取り入れたものらしいが、ぼくには古典的なカタックとの歴然とした違いはわからなかったし、いちいち説明を挟みながら進めていく段取りが「お勉強」じみていた。カタックをコンテンポラリーなものに革新するという発想のようなのだが、例えばタブラでいうところのタルヴィン・シンぐらいまでやってしまえば説明なんか要らないはずだ。会場を出て、名前わからないフェスの偉い人(たぶん)とディープな話をしながらドリンク・レセプションの会場へ向かう。もう11時過ぎなのに街は出来上がったヤングで一杯。ダブリンは若者率が異常に高いように思えたが、要するに週末になると郊外や田舎から都心に出てくるということらしい。レセプションの会場に着くとそこは何を思ったかドッカンドッカン鳴ってる普通のクラブで、とてもじゃないが会話なんかできない。クリティックス・フォーラムを仕切る地元の批評家ヘレンにやっと会えたものの、すでに12時近く、アルもリアもヨーロッパ勢の三人もいないからぼくも帰った。みんな獣のように叫び合って話している。いかにも肉ばかり食ってそうなノリだ。