第三日

リアの電話で起こされ、朝食に誘われる。そこへ昨日喋った偉い人が来たと思ったらスウェーデンのクリティック、リスだった。失礼ながらどう見ても「若手」どころか明らかにヴェテランな上に、常にマシンガン・トークなので名前すらわからなかったのだった。やがてアルも起きてきて加わり、朝っぱらからソニア・サブリのことで議論が過熱していると、本人がレストランに現われたりする。ここはフェス関係者が全員泊まっているのでヘンな話はできない。朝食後はリアとセント・スティーヴンス公園へ行く。
日曜の朝。ダブリン市民のまったりした休日。

ちなみにジャカルタの街には「公園」というもの一般が存在しないそうだ。12時にフィルム・インスティチュートへ行き、そこでヨーロッパのクリティック二人と対面。ギリシャのナターシャ、ドイツのコンスタンツェ。さらにアイルランドのデアドレや、フェスを仕切っているマリーナとも会う。会議室へ行って早速簡単な非公式のプレゼンとセッション。司会をヘレンがやって、デアドレと、振付家にして批評家でもあるポールが加わり、各国のダンス状況と批評の状況について議論する。それぞれ固有の事情はあれど、どこも基本的にダンスおよびダンス批評はマイナーで苦戦しているようだ。コンスタンツェの話に出てきたインディペンデントのアーティストの活動の仕方は日本とよく似ている。ぼくとアル、ポール以外は全員女性なので、フェミ系の話題も炸裂した。どうしてダンサーは女ばかりで、振付家は男ばかりなのかと。日本ではあまりそういうヒエラルヒーは目立たない気がする。この違いは何なんだろうか。一考に値する。それにしてもクリティックという人種は、誰もが鬼のようにお喋りだ。セッションの後のランチも六人そろってダンスのこととか色々喋り倒す。さらにリアとコンスタンツェと一緒にまたさっきの公園へ行き、そこで喋っているとアルとナターシャが来て、結局またお喋りが続く。
リアとコンスタンツェ。

ナターシャ。

いい加減誰もが疲れ切ってきたので帰ろうとしたら、公園の反対側に出てしまって全員でゲンナリし、タクシーを拾ってホテルへ戻る。夜再び外へ出てジョゼフ・ナジ。客席でティエリー・ドゥ・メイと知合いになれた。ナジは'99年初演の旧作で、ナジ本人と女性によるデュオに、ライヴのパーカッションが付くもの。良かった。思いの外ダンシーで、イメージも豊穣。しかしクリティックたちの感想はみんな演劇的な要素に関わる解釈か印象程度のもので、誰もダンスやダンサーや振付やテクニックの話をしない。ポストトークも終わって、リア、ナターシャ、コンスタンツェと四人でレストランへ行く。La Med という地中海系キュイジーヌの店で、タラを食べた。地中海にタラがいるのだろうか。北大西洋では獲れそうだが。お互いの国の話で盛り上がったが、みんなあまり酒呑みではなく残念。0時前にホテルに戻る。明日は大きなイヴェントがない。おそらくみんなナジのレヴュー書きに勤しむのだろう。