第十一日

もう誰もいないレストランへ行くのがイヤなので朝食はパスしてチェックアウトし、荷物だけフロントに預け、昨日ネットカフェで発見したフライヤーを頼りに安い洗濯屋へ行く。ホテルのすぐ近くにあって、数日前にアルと探したのはたぶんここのことだったのだが、通りから門を開けて中へ入っていかなければならず、なかなか気づきにくい。クリーニング屋ではなく、おじちゃんが一人で洗濯機と乾燥機を何台も回していて、頼むと夕方までにやってくれる。次のホテルのチェックインまでネットカフェで仕事をしたいが、有線がうるさいのでまず耳栓を買うことにした。辞書で調べたら「耳栓」は earplug という。(100円ショップならぬ)2ユーロショップ、マークス&スペンサー(UK資本のスーパー)にはなく、その隣の薬局で見つかった。耳栓は昔試してみて、キレイに音が遮断されるわけじゃないことに幻滅した覚えがあるのだが、改めて使ってみると、確かに音楽はまだ聞こえてくるが、それ以上に体の中の音が聞こえるようになるため外界から切り離された自分の部屋ができたみたいになるのだった。断然集中力が上がる。もっと早く思いつけばよかった。それにしてもこの街は、どういうわけかどの店でも有線でかかっているのが80年代末から90年代前半のポップスだ。フィル・コリンズだの、レニー・クラヴィッツだの、R.E.M.だの、U2だの、さらにはソウル・アサイラムまで。流行ってるのだろうか。中途半端すぎる古さだ。昼は前にナターシャが言っていた MISO というアジア系の店へ入ってみた。「味噌」という意味だと思うが、醤油など日本料理をベースにしつつも、YAMAMORI のように見た目を模倣するのではなく、素材を活かしたフュージョン系。オードブルみたいなのが出た後、サーモンとエビがゴロゴロ入った平打ちのヌードルを食べた。味付けは東南アジアっぽいが、辛くはなく、むしろ甘め。悪くない。ホテルへ戻って荷物を受け取り、新しいホテルへチェックインする。バックパッカーとかが集まる安宿だが、プライヴェート・ルームの建物もあり、そっちへ入った。最上階で、寝室とシャワーにサンルーフが付いていて明るい。気分がだいぶ変わる。洗濯屋へ寄って、またネットカフェ。閉店まで原稿を書いたがダメだ。まだ終わらない。コンビニでジャンクフードを買って帰る。
屋根の窓から外を見る。たぶん夜10時頃。先端が光っている塔は、オコネル通りの例のオブジェだと思う。