最終日

夕方のフライトなので、昼過ぎまでに見られるポイントを絞り込み、とりあえずトリニティ・カレッジへ行って「ケルズの書 Book of Kells」を見ておくことにする。あまりアイルランドのことは知らなかったし、事前に下調べもしてこなかったので、「ケルズの書」なんてものもここへ来て初めて知った(鶴岡真弓の本を読んでくれば良かったのだと後で気づいた)。9世紀初めに作られた福音書ラテン語写本で、豪奢な装飾文字の他、なぜか行と行の間に不思議な生き物の図像が点々と浮遊している。これは相当ヘンだ。ケルトだ。解説パネルなどが充実している割に展示自体はわずか見開き述べ8頁なので物足りないが、その上の階には「ロング・ルーム」という強烈な書庫がある。大学の創設は16世紀末、この旧図書館の建物は18世紀半ばに建てられ、それが19世紀半ばには一杯になったので天井をぶち抜いてさらにもう一段作ったという。蔵書のうち最も古い部分が気の遠くなる高さまでギッシリ並べられていて圧巻だが、天井の円いアーチが木でできているのも面白い。次は、クライスト・チャーチ大聖堂へ行ってみる。11世紀にデーン人が創設、その木造建築が12世紀に今の石造になったというから、時代的にはロマネスクとゴシックの過渡期くらいだが、基本的にパーツがシンプルで四角く、独特のゴツいテイスト。素朴な飛梁も四角く幅広い。内部は薄暗いが、イイ感じの柱頭彫刻があちこちにある。パイプオルガンに挟まったままミイラ化したネコとネズミなんていう展示もあった。本当に追いつ追われつの状態のままミイラ化している。そういえばさっきトリニティ・カレッジでもらった「ケルズの書」のパンフレットに、9世紀の修道士の詩が載っていた。自分の飼い猫がネズミを追い回しているのを、自分が言葉を追いかける(思索に耽る)のとなぞらえたものだ。さらに昨日ネットカフェで隣の人の携帯の着信が『イッチー&スクラッチー』のテーマだったのも思い出した。地下のクリプトが凄い。13世紀からそのまま残されているそうで、身廊の下をほぼ全域に渡ってくり抜いてあるため非常に広く、その低い天井を無数の粗削りの石柱が支えている。古いゲームに出てくる3Dのダンジョンそっくりだ。朝から何も食べずに歩き回ったのでいい加減疲れた。だいたい観光なんかには初めから大して興味がない。最後のランチは Charlie's に行きたいので、開店まで教会の庭でボーッとしてから、また北京鴨+ライスを食べて、ホテルに戻り、荷物を出してバスに乗って空港まで帰った。本当に「場所」なんかどうでもいい。フランクフルトでのトランジットはまた時間が全然なく、走る。隣の中国人が色々話しかけてくるが、ワープロ仕事をやりまくって帰ってきた。偶然は重なり、今度はテレビで『トムとジェリー』をやっていた。速くてデタラメな展開がとにかく面白い。どうしてこんなに面白いのか。