捨てる技術

ふと思い立ってステレオとスピーカーを処分することにした。音楽はPCで聴いているためもうほとんど使ってないし、CDプレイヤーも盤の外側の方が(60分過ぎあたりから)ちゃんと再生できなくなっている。カセットデッキはずっと使ってなかったため二台とも完全に死亡。部屋が一気に広くなった。これで寝る前に本の山をどかして寝るためのスペースを確保したり、目覚めるとともに机の上からその本の山をどかしたりする必要もなくなる。しばらくの間は。
要らないものはどんどん捨てるわりに物持ちは良い方で、このステレオは15年も前に買ったものだ。プレイヤー部分は何度も壊れて修理に出したが、ああいう修理というのはなぜか完全には直してくれないので、一度ガタが来ると何度も通うことになり、そのうち「部品がない」とか「買った方が安い」とか言われることになる。
説明書も保証書も保管してあり、それによると貯金を崩して買ったのは「平成元年3月7日」、中二の時だ(中一の時だと思っていたが違った)。中森明菜が黒のボディコンで宣伝していたパイオニアの private A1 という機種で、これを買うまで「音楽を聴く」などという文化とはほぼ無縁だった(LPは一枚もない)。学校でバンドとかが流行っていたから買っただけで、しかもBOOWYだとかバクチクだとかプリンセスプリンセスとか渡辺美里とかちっともいいと思わなかったため、何を聴いたらいいかわからずとりあえず安全地帯の4と6を買った。何となく好きだったのだ。これについて誰かと語ることはまったく不可能だったが、テレビには出ていたから「暗いね」という程度のコメントはもらえた。特に4は何度聴いても良い作品だと思った。今聞いても相当いい。6はちょっとロックが入っていて、バービーボーイズ*1の杏子が参加していたりする*2
多分最初の転機は、中三の時に佐野元春の『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』をジャケ借りしてハマッたことだ。佐野元春なんてテレビにも出ないし名前すら聞いたことがなく、だからこれは全くの幸運だった*3。「歌」という概念が壊されたし、世界観にもけっこう影響を受けた。しかしこうやって気まぐれで手を出していると、次は何を聞いたらいいのかがわからず、それが悩みではあった。「次は何を聞くか」を知っているのはたいてい上に兄弟がいる人で、当時ぼくはそういう人を羨ましいと思いつつ、ひがみ半分でちょっとバカにしてもいた。知識(ウンチク)が直感(センス)に先立っている感じがしたのだ。好きな音楽を自力で探すとなると、当然手当たり次第に試すことになる。しかし大学に入ったら色んな人と会って、「最初は受け売りでも最終的に自分で判断できればいい」と考えが変わり、別の意味で手当たり次第に広げた。
今はそういうのも飽きて、もう自分の好きな音楽しか聴いてない。新しいのを買わなくても、情報収集さえしなくても気にならない。といいつつもうすぐクレイジーケンバンドのニューアルバムが出るので、それだけは楽しみなのだけど。この期待感は佐野元春を聴いていた頃のそれに近い。

*1:ちなみに美学関係者の間では有名だが、バービーボーイズのギタリストいまみちともたかは、かの今道友信先生のご子息である。

*2:しかし本当に凄いのは5。あふれんばかりの実験性とセンス漲る二枚組。中学生のぼくは「ノイズが入ってる」と言ってお店で交換してもらった。6からは下降線。

*3:佐野元春は高校時代に友人にいろいろ教えてもらって、一緒にライヴとか行った。しかしホーンが入ってきた辺りから離れてしまった。