夜のエアポケット

神楽坂でパフォーマンスを見た後、いつも行くラーメン屋に入る。有線が鳴ってるのだけど、入ってから二曲目がはなわガッツ石松の歌。どうしてこう考えなしに何でもかんでもいっしょくたに流すのか。聞きたくないのにそっちに意識が行ってしまい、味なんかわからなくなった。この店に来るのは神楽坂へ来た時のちょっとした楽しみなのにオジャンだ。どうして意識が行ってしまうかというと、一つ一つのオチの前に間(ま)を作ってありもしないこっちの期待をムリヤリ盛り上げ、どんなオチが来るか待つよう演出されているからだ。ただの音楽はサラサラ流れていくだけだが、こういう音楽はサラサラ流れていかない。わざわざ足を止めて鬱陶しく絡んでくる*1。好きな店に行く時というのは、食だけじゃなくてそれを取り囲んでいる諸々の環境も全部ひっくるめて楽しみにして行くのだから、こういうのすごくガッカリする*2
その後は渋谷でタップを見る。タップというものの面白味がだいぶわかってきた。去年セヴィアン・グローヴァーを見たときは、正直あまりわからなかったのだが、この前ダブリンでカタックを見て、さらにアイリッシュ・ダンスを見て、次第につかめてきた。その流れで、前からインドの古典舞踊について知りたいと思ってたことを思い出し、タワレコへ行ってみたがそういうDVDは一枚も置いてなかった。ヨガしかなく、お店の人は「これなんかだともう本気のヨガなんでー」とか言い方が面白い。そして「逆に」がものすごい口癖で、センテンスを改めるたびに「逆に」が付く。何もかも必ず何かの逆であるのかと考えるとちょっと深いような気もする。携帯に大阪のFさんから新しい仕事が入る。
さらに横浜へ行って、11時から大野一雄のフィルム上映会。まだ少し早いのでBankARTのカフェに行った。何だかんだでここへは初めて来たが、天井が高く漠然とした広がりの中に多くの人々が集っている雰囲気は良い。今日は黒沢美香の公演があったのだが、見られなかった。相当良かったようだ。OさんやAさんや色々な人に会って話してから、夕食に出る。適当に入った店に今夜の黒沢美香を見に来たMさんやFさんやNさん*3らがいて、そこへお邪魔していたら黒沢美香打ち上げの一行も入って来たりした。彼女らはガッチリとチームを組んでいる感じがしていつも格好いい。その場を失礼して上映会へ行く。予想に反して満席。Iさんに会った。オールナイト上映会というものに出かけたのは初めてだが、案外見れてしまう。朝5時頃になるともうみんな舟を漕いでいて、輝くスクリーンを前にたくさんの頭が揺れているさまは何かのインスタレーションのようでもあり、不吉な礼拝のようでもあった。

*1:しかもこの歌は、有線だからフルコーラスとはいえ、異様に長い。小ネタを数珠繋ぎにしているからそう感じるのかと思ったが、店を出るまで終わらなかった。相当長いはずだ。はなわに災いあれ!

*2:ちなみに本郷には超お気に入りの蕎麦屋がある。ここは蕎麦もつゆも私的ベスト1で、しかも安い。それに加え音楽はおろかAMラジオやテレヴィすらなく、空調の音だけがかすかにブーンといっていて、奥でシャッシャッと水を切る音が聞こえてきたりする。古い日本家屋のような、ちょっと不気味なくらいの静けさが好きだ。半端な時間帯(午後3時とか5時とか)におもむろに入って自分一人だったりすると最高なのだが、それも後からサラリーマンが入ってきて携帯で喋ったり、タバコを吸い始めたりするとオジャンになる。以前可笑しかったこと。外回りらしい人がざる蕎麦を頼んだのだが、電話がかかってきて、話している間に蕎麦が来てしまい、その人は電話を切りたいのだが切れず、箸を割って片手で蕎麦をつゆにつけるところまでいき、口元まで持っていった状態でまだ電話を切ることができずにいた。右手と左手が壮絶なバトル。悲惨。

*3:ずっと前にぼくの好きな黒沢美香評を書かれた方だ。ようやくお顔とお名前が一致した。