ヘルハウス

『ヘルハウス』('73、ジョン・ハフ監督)を見た。ずーっと昔に一度見ているのだが、その時は何がいいのかよくわからなかった。実をいうと今回もそれほど面白いと思わなかったのだが、とりあえず美術が凄いのと、それから照明や衣装や役者などが一貫した美意識で丁寧にまとめられているところなどが印象に残った。安易なショックシーンを排して雰囲気で盛り上げていこうというクラシカルな様式美はわかるのだが、いかんせん同じような短いエピソードの積み重ねになってしまっていて、単調に思えた。しかし冒頭部分はいい。「物理学者」がよくわからない金持ちの老人に「地獄屋敷を調べろ」と雇われて、霊媒師たちと一緒に屋敷へ乗り込んでいくまで。特に物理学者が「そんな電波な連中と仕事なんかできない」というと老人は「じゃお金いらないんだ」と突っ込み、学者は「うーん、わかった」みたいな、しかもその切り返しがいかにも「ここは前振りなのでどうでもいいんだけど、ないとヘンだからやっています、みなさん適当に、ノリで盛り上がっていきましょう」といわんばかりのスピーディさで、さらに二人が相手の顔を見ているショットなんか二人の顔が近すぎてギャグスレスレになっている。そしてタイトルバックがカッコイイ。屋敷の門の前に学者とその妻と、霊媒師と超能力者が並んで、下からあおって、切り返して、門が半分開いたところに赤字でタイトルが出る。「THE LEGEND OF HELL HOUSE」。パーフェクト。タイトルの出し方、あるいは最近だと監督の名前の出し方というのは、映画におけるロマンが最高潮に達する部分だと思う。この「物理学者」がポルターガイスト現象に襲われるシーンも笑えた。テーブルについていたところ、食器がバンバン割れて、ビビッていたらイスごと突き飛ばされ、床に倒れたと思ったらそこへ暖炉の火がボーッと噴出して、ダメかと思ったら横へのけて助かっていた。こういうスラップスティック気味なアクションがもう少しあったら盛り上がったのにと思う。
それにしても、過去に一度見たとはいえほとんど何も覚えていなかったから、今回が二度目だという事実は無意味であるはずなのだが、でも二度目なのだと思うとそれだけで妙に落ち着いて、「客観的」に見ることができたような気がする。一度目に見て記憶されていたものが再びそこに見出されるところに意味があるのでは必ずしもなく、「過去に一度見た」という自分の意識がどこかリラックスさせてくれるようだ。「過去に一度見た」という記憶さえあれば、中身は何も覚えていなくても、自分は初めてこれに接するのではなくすでに知っているものをそこに再認しているのだ、という余裕の構えができるのではないか。その「再認」が本当の再認なのか、単なる思い込みなのかは自分では区別できないが。