ダンスは体育じゃない、という話

原宿で指輪ホテルを見る。久しぶり、三回目だが、照明をやっているAさんが掲示板に書き込んでいるのを見て行くことにした。正解だった。Aさんのリコメンは信頼している。ぼくが見逃した金魚×10の旗揚げ公演*1で、鈴木ユキオの仕事をいち早く評価したのも実はAさんである。たくさんお仕事されている方だが、いわゆる集客のための「宣伝」じゃなく、観客としての口コミというか「リコメン」をしてくれる。
明治神宮前→表参道→青山一丁目→赤羽橋、と細かく乗り換えて移動。また何も口に入れていないので、青山一丁目で一度改札を出て以前教えてもらった蕎麦屋に行ってみようかと思ったが、精算機で「乗り継ぎ」をした方が少し節約できるので諦めた。東京メトロ都営地下鉄の間を精算機で乗り継いだ時に初乗り運賃を省いてもらえるのはやはりサーヴィスなのだろうか*2
麻布die pratzeの周辺にはほとんど店がないので、三田の方へ歩いて何か探したが、休日はことごとく閉まっている。こういうのも景気と関係なくはないのだろう。だいぶ歩いて、大戸屋を発見したので初めて入ってみた。ジャズが静かに流れていて、安く、早く、美味い。全席禁煙。完璧。小さな個人営業の店が軒並み閉まっている休日に、これは大資本のチェーン店にしかできない芸当なのだと思うとちょっと引っかかるものはある。
黒沢美香&ダンサーズ。驚くべきことにAさんはこっちの照明もやっている。ぼくは見るだけのハシゴだがAさんは仕事でハシゴだ。『ダンス☆ショー』は超期待していて、周りの人にもオススメしていたのだけど、少なくとも最終日の今日は悲惨な出来だった。特定の誰かが良くなかったとか、そんなことじゃなく、ダンサーたちの間にいい電波が流れてなかったのだ。結果的に、ダンスは体育ではないということが改めてよくわかる舞台であった。古来ダンスは暴動とか集団ヒステリーとかと結び付けられて危険視されがちだが、ダンスが危険なのではなく、ダンスが何かの間違いで体育にスイッチしてしまった時、その体育が危険なのだ。
しかし嬉しいこともあった。休憩時間に黒沢美香が舞台に出て、ついにクレイジーケンバンドで踊ったのである。しかも最近のじゃなくファーストアルバム『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』の3曲目『踊り子』で!黒沢美香がCKBというか横山剣に思い切りハマッてることは前から知っていた。確か『肉体関係』辺りから、と聞いたような気がする。ちょうどその頃カウリスマキが『過去のない男』でCKBを使ってたから、「たまたま好きだったカウリスマキ横山剣がなぜかつながってしまった」という驚きを共有し盛り上がったことがあった*3
終演後は大変に憂鬱な気分だったので、このまま誰とも言葉を交わさずどっぷりとダウナーな気分に浸って、その浸っている自分を退廃的に楽しみながら帰るか、それとも誰かと憂さ晴らしをしてスッキリするか、どっちかでなければならなかった。ポジティヴ・シンキングで、同じ感情を共有していたSさん、ダンサーYさんと三人で紹興酒を飲んで帰った。
次は土曜の「吾妻橋ダンスクロッシング」までダンスはお休み。聞くところによると、こないだのトヨタ身体表現サークルに惚れ込んだ「あの」ダンサーが飛び入り参加するらしい。驚いた。もはやこの国のダンスでは、「正しい」ことなら何でも、いかなる障害もなしに実現するのだ。期待値マックスである。

*1:ちなみに金魚×10には、この時だけほうほう堂も参加していた。

*2:調べたら初乗り運賃云々じゃなく、70円の割引が設定されているのだった。関係ないが地下鉄の精算機はちょっとでもお金を入れるのが遅いとすぐ大きな声で「不足分の料金を入れて下さい」とか言い出して非常に鬱陶しい。そこでぼくはこれを黙らせる技術を開発した。ただ画面表示を ENGLISH に切り替えてやればいいのだ。英語版の音声は用意されてない。

*3:要するに黒沢美香もぼくも、カウリスマキが好きで、横山剣も好きだったが、別にカウリスマキ横山剣がつながるなんて思ってもいなかったよね、と二人ともが思ったということ。(2×2)×2?