インタヴュー最後の一発を録ってから、シアタートラムでBATIK見る。
帰りの電車で、何気なく、斜め向かいに座って本を読んでいる女の人の籐のバッグに目が留まって、その美しさに見とれてしまった。細かい織り目が複雑なアラベスクをなしていて、表面は光っている。あまりジロジロ見ているのもヘンなので、品良くゴージャスな文様を仔細に目で追うことはできなかったが、道具にはそれを使う人の「手」の跡がつくから、そのバッグに添えられている片方の浅黒い手と、薬指の銀の指輪、またバッグに引っ掛けられている細い雨傘、さらには(彼女が降りる時に気づいたのだが)サマーセーターの腰の辺りにデザインされている二本の太いラインなどまでがそこに調和しているように思えて仕方なかった。バッグの持ち主本人を含め、諸々の「付属品」がその籐のバッグを中心に放射状をなして配置されているかのごとく、美しく見える。結局ずいぶん見てしまってて、こんなことを書くのも後ろめたいが、確かに、自分がこんなものにこうも目を惹きつけられてしまうという事実が不思議なくらいだった。
駅の階段を登る時に、斜め横にいたオッサンが、若いサラリーマンにちょっと強引に追い越されて、それで何か口走ったらしく、すると相手も「殺すぞ」とか言い返し、この二人は至近距離で睨み合いながらそのまま登り続けていて、これを見ながら、何かさっきのことが理解できたように思えた。この二人は、お互いに相手の実力がわからないから、内心ビビリながら、相手より優位に立とうとしてガンを飛ばし合っている。それはもうくだらない話で、まったく醜いとしか他にいいようがない。しかもどちらもが不快な思いをして、自己嫌悪を感じているに違いないと思うといよいよ絶望的に醜い。思えば今日は、なぜかこういう不機嫌な人にたくさん行き会ったのだった。至る所に、少なくとも5人はいた。季節の変わり目だからか何でだか知らないが、とにかく虫の居所が悪いのだろう。その不機嫌が、別に自分に向かってこなくても、ただ醜くて目をそむけてしまう。電車の中で人が持っているバッグなんかに目が留まったのも、きっとこのせいだと思った。