カリフォルニアのガイドブックを物色しにブックオフへ行く。いいものが見つからず全く関係ない高橋哲雄『アイルランド歴史紀行』('95、ちくま学芸文庫)を買ってしまった。どうしてこれがちくま学芸文庫なのかという気もするが、ちくま学芸文庫ちくま学芸文庫であるというだけで買って読みたくなるばかりでなく、こんな平凡なタイトルでありながらちくま学芸文庫に入っているということは、この見た目の平凡さの背後に何か予想外のひねりが入っているのではないかとさえ期待させられてしまう。かつて岩波文庫が占めていたようなポジションとはちょっと違うだろうがちくま文庫は何か特別に高貴な「格」を帯びている。カリスマ性がある。ガイドブックは紀伊国屋へ行って買った。異様に文字が小さくありったけの情報量を誌面に詰め込んだ確信犯的なやつが一つあって、編集者の気概に魅力を感じたがそれは見送りになった。そういえば『地球の歩き方』はいつから小口が青じゃなくなったのだろう。
またリンカーンセンターへ行き、今日はちょっとだけ Evidence を見て昨日の Complexions との違いを確認してから、この前ジョイス・ソーホーで見て凄く良かった Ashleigh Leite のオリジンであるところのペトローニオをまとめて見ようと思っていたのだが、Evidence を見始めたらやっぱり面白くて止まらず、ペトローニオまで行けなかった。Evidence はとにかく何といってもアフリカンダンスがベースの、リズムが命の踊りで、バレエなどはほとんどアクロバティック的な味付けであり、そしてモダンダンスの文法はごくささやかにシンタックスとして導入されているように思える。とはいえ見ているとアフリカンダンスといっても何だか色々ありそうで、しかもそれと戦前の社交ダンスやストリート系との複雑な繋がり方とかも垣間見え、さらにカリブ関係とかも絡んで来るし、とにかく奥が深そうだと思った。こういうところまで来るともはや文献と映像資料だけではフォローし切れないかも知れない。実際に踊ってみると色々なところに繋がりが見つかって、歴史を体感できたりするのだろう。そういえば昨日何かの本の裏表紙にあった著者の写真は、床についた低い姿勢でダンスを実演しながら原稿を手で持って読んでいるというものであった。
その後はセント・マークス教会へ行って、二階にあるオントロジカル・シアターでリチャード・フォアマンの明日のチケットを押さえて、一階でフランスから来た振付家のダンスを見た。この人はアルウィン・ニコライのもとで踊って、後にアンナ・ハルプリンに私淑していたり、イヴォンヌ・レイナーの作品を踊ったり、ポストモダンダンスおよびその前後のアメリカに思い切り影響を受けているらしく、興味をもっていた。「動き」以前に「身体」にフォーカスしているところがやはりハルプリン的であり、そして土方的でもあるのだが、ダンサーを裸にしようが、タスク系の振付を行おうが、薬物の空き箱をたくさん出そうが、下着で体を縛って「不具」にしようが、何も出て来はしない退屈な舞台だった。この前のイヴォンヌ・メイヤーにおける「動物」といい、こうした「生」のテーマはおそらく今、世界的なダンスの傾向であるように思えるが、そうなって来るとますます土方や舞踏の偉大さが際立ってくるし、同時に、日本のコンテンポラリーダンスの重要性も高まってくる。