昨日の午後、新しい携帯を契約しに行き、回線が通じるのを待っている間に近くのブックオフへ入ったら、定型の「いらっしゃいませー」がリレーのようにあちこちから殺到して来て可笑しかった。別に嬉しくもなければ特にイヤがる理由もないがただ単に「異様」である。独自のアレンジを施して奇妙なアニメみたいになっている男性の声、あるいは新しい客が入るたびにわざわざ数テンポ遅れて発声するくせに必ず最後は力なくフェードアウトする甘ったれた女性の声。パターンの中に作られたパターン、制度の中に作られた制度において、何とも貧弱としかいいようのない自己表現が交わされている。みみっちいが、繊細ではあり、圧倒的に生命力は弱いが、確かに生きている。マンガの棚にはたくさんの人が密集しているのに、105円均一の文庫の棚にはぼくの他には店員しかいなくて、彼女はそれまで幾度となく「いらっしゃいませこんにちはー」の唱和に参加していたのに、何を思ったかある時突然「いらっしゃいませこんばんはー」と言いかけてしまい、しかも途中で気づいたので「いらっしゃいませこんばん…ちぁー…」みたいなことになり、その場には彼女とぼくしかいなくて、ぼくとしては何としてもフォローしてあげたいポジションではあったのだが、それもまたかえって傷を深くしてしまうだけという気もして、おそらく向こうもそんなようなことを想像しているに違いなく、ただ他人同士の想像と想像が想像の中でからまり合い、時間が経てば立つほどいや増す気まずさを何となく共有しながら、ぼくは棚を見ながら歩き、彼女はそのまま品出しの仕事を続け、それぞれ全く無関係に平行移動しながら距離を広げて、いつの間にか互いに消え合った。