TIM(アートセンター)の正門前でのコンタクト・ゴンゾは大成功。インドネシアでは少し刺激が強すぎるかもとは思っていたが、ビンタが入ったりするたびに声が上がったり、ちょっと怖がりつつも盛り上がって見てくれていた。姫野さやかのドラムも凄まじくて、黒山の人だかりになってしまった。ダンス関係者にも好評。
ジェコとゴンゾと一緒に軽い夕食をとって、初日のメイン・プログラムへ。故グスミアティ・スイドの作品は初めて生で見たが、スマトラ島ミナンのマーシャル・アーツを基礎にした鋭くて明晰な動きのヴォキャブラリー。ダンサーとともに舞台に上がる歌手数人が、よくわからないけどイスラムっぽい歌を歌い、ムードも濃厚で、とても説得力のある舞台だった。インドネシアの若手を一組挟んで、トリが韓国のキム・ジェドク。前半は複雑なムーヴメントを目まぐるしく見せていくので、誰でも目が釘付けになってしまうけど、中盤から一気に作品のトーンが変わり、土臭いガクソリの歌唱とバンドの演奏が入って来る。あまりにも転回が急なので、しばらくは客席の空気とのズレを感じた。いかにも韓国的な、アツい情念で押しまくるやり方がインドネシアでは理解されないのかとハラハラしたが、曲が裏拍に変わった途端になぜか一斉にノリ始める。客席通路にいるダンサーを、反対側の通路にいるジェドクが煽って、見事に観客を巻き込み、手拍子も始まった。これこそ韓国の「芸能」の精神。終演後の観客のテンションがもうやたらに高いし、フェスティヴァルのオープニングに相応しく派手に炸裂してくれた。ジャカルタの人たちには、韓国のダンスというものに対する強烈なイメージを残したと思う。
夜はホテルのレストランでジェドク一行と軽く打上げ。インドネシア語と韓国語の通訳に挟まれて肩身の狭い思いをしながら話を聞くと、ジェドクは今は大学院の博士課程に通っているらしい。崔承喜と石井漠に興味があって色々調べているそうで、崔承喜と梅蘭芳の関係もよく知っていた。やはり歴史を知っていると作品のもつ意味の厚みが違ってくることは、今回上演された『Darkness Poomba』が如実に示している。韓国のことを知らない人にも、(楽しく盛り上がるだけでなく)知的な好奇心を起こさせる。でも最近の作品は民俗芸能色を出していなくて、なぜかと聞いたら国内では人気がないからだという。80年代に流行した表層的な民族主義に対する反動が来ている。国の中と外とで評価がズレるというのは、よくあることとはいえ、一体どうしてなのだろう。彼も国外に留学したら新しい展開ができるかも知れないと思った。
一夜明けて、午前中からジェドクのマスタークラスをのぞく。昨晩の作品に出ていた歌手がついて、生歌でやっていたのはビックリした。彼らとは週末にまた韓国で。
午後はインドネシア振付家たちのパネル・ディスカッションに少し顔を出し、ジョグジャの友人たちなどに会う。
夕方からまたストリート・パフォーマンス。ゴンゾを屋外でやるアイディアを出したら、インドネシア側も乗っかって来てくれて、IKJの学生たちのチームと交互にやることになった。1年生と2年生が中心らしく、テンションだけでひたすら騒ぎまくっていて、こういうのはちょっとチガうんだよなと思いつつ、一応フェスティヴァルらしい盛り上がりは生まれた。驚いたのはかなりの交通量のある大通りに数人でいきなり飛び出して行って、車列を大渋滞させながら路上で騒いでいたこと。メチャクチャさが圧巻だったが、クレームが来たら今後やれなくなっちゃうので、ちょっと考えもの。
今夜はいよいよコンタクト・ゴンゾの本番。